宮崎大学医学部附属病院 輸血部
このマニュアルは自己血輸血を実施し,あるいはこれから計画されてい各診療科の指標となるように、自己血輸血担当者がこれまでに実施した多数例の経験と知識を持ち寄って作成したものです.現在までに実施されている内容は殆ど含まれていると思われますが、各診療科の対象患者は多種多様でありますので、診療状況に適した内容を取捨選択して利用してください.
1適応患者の選択
1)適応患者は、性、年齢、疾患、検査所見、術式、待機期間、希望貯血量、血液の種類や保存方法等を考慮して輸血部医師、叉は患者の担当医師が選択します.
体重、年齢は特に制限する必要はありませんが、患者の協力を得られることが重要です.
2)先天性出血素因、細菌感染症、菌血症のある場合や採血により病状の悪化する恐れがある患者では採血をしない.てんかん(痙攣)の既往がある患者では抗痙攣剤投与等を考慮して採血を判断する.妊婦については産科医と相談の上で行う.
3)自己血採血を行う事が決定したら、輸血部採血室(3183)に申し込む.その後採血計画をたてて患者に指示する.採血計画表は術前自己血希望貯血量を参考にして作成する.
2.自己血採血の申込方法
1)全血、CRC、FFPについて
・輸血部採血室へ直接叉は電話で申し込む.採血前日の16時までに、自己血輸血申込用紙と血液製剤依頼書を輸血部に提出する.外来採血に於いては、当日でよいが事前に電話連絡が必要です.
・血液型、抗赤血球抗体スクリーニングが未検査の場合は、血液型検査オーダーも一緒に入力して下さい.(検体不要)
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自己血輸血申込用紙がない場合は輸血部にあります.
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2)血小板,リンパ球について
・採血の2日前の16時までに自己血輸血申込用紙、連続成分採血装置使用通知書を輸血部に提出する.
*不明な点,緊急時、その他相談に応じます.
3.患者への説明と同意
自己血輸血は治療行為であるので、診療科の担当医師は患者に自己血輸血の利点と採血に伴う副作用の発生および手術の状況により自己血のみでは不足する場合に同種血(日赤献血)を使用することもありうる等を口頭で十分に説明し、患者より同意を得た上で指定の「説明と同意書」を提出して下さい.
4.患者の採血前検査項目と採血許容範囲
1
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血 圧
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200mmHg>収縮期血圧≧90mmHg、拡張期血圧<100mmHgの範囲 |
2
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血液型
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ABO、Rh式血液型、不規則性抗体スクリーニング |
*未検査の場合は輸血部で採血直前に検査可能 | ||
3
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血 液
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Hb≧11.0〜10.0g(Ht≧33〜30%) |
血小板数≧10万/m | ||
白血球数(正常範囲内 ) | ||
*未検査の場合は輸血部で採血直前に検査可能 | ||
4
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生化学
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TP、ALBは正常範囲にあること. GOT、GPT値は担当医師の判断による. |
5
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感染症
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梅毒反応,HBs抗原,HCV抗体,HTLV-I抗体は必ず実施し, HIV抗体は必要と判断される患者について行う.感染症検査陽性 患者の自己血輸血については,内外ともに賛否両論あるが, 自己血輸血が治療行為である以上,特定の感染症を理由に拒否すべきではない。 ただし,担当者の感染事故の危険性を考慮して,HBs抗原,HCV抗体, HTLV-I抗体が陽性の患者の場合は必ず採血担当者に報告をすること。 |
5.自己血輸血の種類
1)
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貯血式
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輸血部で実施. |
2)
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希釈式
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輸血部が手術室に出張採血で実施. |
3)
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回収式
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麻酔科が手術室で実施. |
・主として術前貯血式でCPD採血・ACD採血し、それぞれCRC、RC-MAP、FFPに分離し液状保存、凍結保存とする。
・待機期間と貯血量によっては術前希釈式、蛙跳び法、Switch back法も併用する。
・採血方式は、担当医師が輸血部担当者と相談し選択する.
手術までの
待機期間 |
製 造 方 法
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3週間以内
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赤血球と血漿に分離し,CRC, FFPとして保存.
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3週間以上か
手術日が未定の場合 |
ACD採血後,赤血球と血漿とバフィコートに分離後,バフィコートは除去する。赤血球にMAP液を加え、RC-MAPとFFPとして保存.
*MAP液の場合は最高6週間保存可能. |
7採血量と採血間隔
1)1回採血量は、外来採血では循環血液量の10%程度(100〜450ml)、又入院中の採血では12%程度(120〜500ml)とし、術前のHb値が10g/dlを下まわらないことを目安とするが、症例によっては Hb9g/dl程度で手術が実施されることがある.その時でも手術中は特に問題は起こっていない.
・通常当院では45Kg以上なら400ml、体重がそれ以下あるいは Hb10g/dl程度の時は200ml採血を行っている.
・患者のHb値が10g/dlに低下するまでの貯血可能な血液量は、循環血液量とHb値から図2のように算定できる(採血期間中の造血量は加算していない).
2)採血間隔は外来採血で5〜7日間以上、入院中の採血では3日間以上あけることが望ましいが、間隔が短い場合や利尿剤服用中の患者、外来採血では、乳酸加リンゲル液(ソルラクト,ラクテック、ハルトマン等)500mlを 15〜30分間で点滴静注し、循環血液量(細胞外液)を補充しておく.
8.採血場所と採血実施
1)採血場所は1階輸血部で行うが、患者の状況に応じて出張採血することもある.
2)採血は各科担当医師、または輸血部医師が行い、看護師は採血時の看護を行う.
手術室での採血に関しては、麻酔科医師の管理のもとに輸血部担が採血する.
3)採血担当医師は自身の手をよく洗う.
穿刺部の消毒は、最初にアルコール綿、次に0.5%ヒビテンアルコール綿で充分に行う.
4)患者は採血時には、食事,トイレを済ませておくこと.
5)各科担当医師は、IDカード持参のこと.
9.採血に伴う副作用とその処置
1)迷走神経反射
採血時の副作用の殆どがこの迷走神経反射である。特に初回採血時に起こり易いので担当医師は、採血終了まで在室して患者の副作用の有無を確認し、採血後は、15〜30分間は安静を保たせる.
発生頻度
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献血者で0.1%であるが,自己血採血者では3%以下である。 |
症状
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気分不快感、不安感、生欠伸、冷や汗、吐き気、嘔吐を訴えて顔面蒼白となり、脈拍は60〜40以下の徐脈を呈し、触知し得なくなることもある. 血圧は70〜60mmHg以下に低下し、意識消失、痙攣、失禁を来すこともある. 観察を十分に行い初期の段階で発見して速やかに処置し、症状を進行させないことが重要である. |
処置
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採血を中断してベット上で下脚を挙上させて臥床させる.通常は,10〜20分もすれば自覚症状は消失する. 血圧は症状よりも回復が遅れるのが普通で、脈拍は少しずつ早くなったり、また戻ったりしながら次第に元のレベルに回復してゆく.脈拍の回復が始まる頃に一致して症状も軽快し始めるので、脈拍、血圧、自覚症状の観察をする. 症状が進行したり、回復が遅ければ輸液を行い,必要あれば硫酸アトロピン1/2〜1A(0.25〜0.5mg)を静注、または筋注すると速やかに回復する. |
2)不均衡症候群
採血後から数時間、時には翌日以降まで持続する全身倦怠感、脱力感、頭痛、頭重採血後から数時間、時には翌日以降まで持続する全身倦怠感、脱力感、頭痛、感、思考力減退が出現するが、これは短時間に血管内と組織との間に浸透圧の不均衡を生ずるためと考えられる.
採血後は安静にさせ、症状によっては輸液も考慮する.
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外来採血の場合は、副作用の可能性が稀ながらあるので、採血日には自分で車を運転して来院しないように指導した方が良い. できれば家族の付添いがあればなお良い. |
3)皮下出血と血腫
抜針後に圧迫止血を確実に行う.
4)神経損傷
肘静脈を穿刺し過ぎると尺骨神経、正中神経、橈骨神経を損傷することがあるが、このときは電撃痛が末梢まで走ることが多い.その時は直ちに抜針し、穿刺部位を換える.
10.保管場所
保存は輸血部の血液用専用保冷庫、冷凍庫で行う.
手術日に日赤血と同様に出庫します.
11.未使用血液の処理
使用されなかった自己血は、他の患者には転用出来ないので、輸血部に返納の上処理します.
12.輸血料
自己血輸血は,手術に伴い輸血を行ったときに算定できる。
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自己血輸血(200mlごとに) | |
液状保存の場合
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600点
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凍結保存の場合
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1200点 |